これまでもあちこちの音楽サイトや個人blogなどで話題になっていた輸入CD規制問題。
今週音楽関係者により反対声明が発表されたり、会見が行われたりして、にわかに盛り上がりを見せている。
音楽のみならず、あらゆるメディアの世界で著作権の問題はナーバスな問題だ。
形のない、数字でははかれない「人間の創造力」というものが莫大な利益をもたらす可能性を秘めているという事から、作者・作品を扱う企業・消費者など関係するそれぞれの立場でそれぞれの思惑が複雑に絡みあう。
また、この「創造力」が一体どこまで「その人の創造力」によるものなのかが曖昧な場合も多く、更に複雑な問題になる。
しかし、この問題を解決すべく、何らかのルールを定める場合、作者も消費者もどうしても限界がある。強者は圧倒的に企業であり、業界であり、国だ。
IT業界、PR業界に身を置く私自身、仕事を通してこの「著作権」についてはここ数年いろいろ考えさせられてきた。
今回の輸入CD規制をめぐる著作権法改定の問題は、いち音楽ファン、消費者の立場としていろいろ思うところがある。
というよりは、今回の問題はそもそもの「著作権の保護」からは完全に逸脱しているように思う。
そもそもこの輸入CD規制の問題は「還流CD」だった。
この「還流CD」とは、日本のレコードレーベルが日本人アーティストのCDを海外(主としてアジア圏)向けに販売したものが日本に逆輸入され(還流)、国内版より安価で販売されるものを指す。日本では再販制度により邦楽CDの価格維持が図られている。確かに、「還流CD」により国内の邦楽CD市場は大きな打撃を受けかねない。
この、邦楽の還流CDを規制するという点においては、「著作権保護」の観点から確かに議論の余地はあるかと思う。
(個人的には日本のエンターテイメント系(CD、コンサート、映画、アミューズメントパークなどなど)の価格設定は高すぎると思っているので、還流CDに対抗すべく、価格を下げるなり、付加価値を付けるなりすべきでは、とも思うのだけど)
今回、問題になっているのはこの規制を邦楽の還流CDのみならず、全ての輸入CDにも適用する、という点。
つまり、これまでのようにタワーレコードやHMV、バージンなどで安価な洋楽輸入CDが手に入らなくなる可能性があるということ。
ご飯を食べたり、トイレに行くかのように、道を歩いていてふらりと輸入CDショップに立ち寄るのが自然な音楽ファンに取っては仰天するような話じゃないですか。
しかも、何故そんな法案になったのか、その理由が明確ではない。(レーベル会社などの音楽関係者が総じて主張しているということでもなさそうだ)
実は私も当初この問題は還流CDに限ったものだと思ってあまり気に止めていなかった。
しかし、今週頭になり、音楽好きな友人から相次いでこの件についてメールを貰ったりもした。
会社の同僚や周りの友人にこの話をすると、「ええっ?そうなの?」と輸入CD全面禁止の可能性については、まだまだほとんど知られていない。
私には音楽を通じて現役の大学生の友人たちもいる。
若い彼等は限りあるお小遣いをやりくりして、好きなアーチストのライブに行ったりCDを購入したり、自らバンドを始めたりしている。
私も大学時代は、輸入CDショップに入り浸り、どん欲に、新しい音楽を吸収していた。
いつ行ってもそこには私の知らない世界中の最新の音楽が比較的安価で沢山並んでいた。
実は昔ほど新しい音楽にどん欲ではない今の自分に取って、ぶっちゃけ、輸入CDが規制されること自体は、それほど打撃もなければ問題もない。(勿論、音楽ファンとして「輸入CD全面禁止」なんてナンセンスな法案は反対というのは前提ですが)
もともと、好きな洋楽アーチストについては、歌詞カードや解説、ボーナストラックの充実から国内盤洋楽CDを買う事も多かった。
消費者はバカじゃないので、自分の価値観で多くの選択肢の中から商品を選ぶ。それが消費する側の愉しみであり、唯一の特権だ。
例えば大学生の彼等もきっとそう。
輸入CDが手に入らなくなるからといって、やみくもに高価な国内盤洋楽CDを手に取るなんて事はせず、別の方法で新しい音楽を吸収する方法を勝手に見つけだすはずだ。
音楽好きな私たちに取っては、ただひとつの選択肢が消えるというそれだけの話。
繰り返すけど、消費者はバカじゃない。
ひとつ懸念することは、今回の反対派の動きを受けて法案が中途半端な解決策で軌道修正すること。
何処も責任を追わない曖昧な形で決着し、その余波を受け、これから台頭してくるかもしれない新しい音楽メディアなどに少なからず影響を与えたりして、日本の音楽シーンは結果10年遅れることになるかもしれない。
問題を先送りにすることが得意な日本では往々にしてそういった事が起こる。
そういう意味で、今回の件は、この問題をまだ知らない沢山の人に知ってもらい、どんな過程を経てどんな結果に終わるのかを見届け、更にその結果どんな影響を受けるかについて考えることに意味があると個人的には思っている。
最後に坂本龍一氏のコメントを引用します。
教授はやっぱりいいことを云うなあ。
コメント